M&Aの事例

希望売却額と適正評価額が異なった事例

企業情報

1企業の概要

当社は、サービス付き高齢者住宅を主業務としています。部屋数は約50部屋で、JRの駅に隣接し利便性が高い好立地にあります。主な収入は、入居者からの入居費用と介護報酬です。後継者不在のため売却を検討しています。

2損益状況と貸借対照表のポイント

直近の決算では、売上が約7千万、営業利益は数百万を計上しています。金融機関からの借入金が1億数千万あります。建物及び建物付帯設備は自社で所有し、代表が所有している土地を会社が借地として使用しています。

3買収先企業への要望とその他特記事項

代表は、従業員の雇用継続を強く希望しています。また、売却後一定期間は、代表の在籍は顧問等で可能です。不動産については、会社と共に売却を希望していますが、賃貸の要望に関してはご相談の余地があります。売却額については、金融機関からの借入金が返済でき且つ代表の手元にいくらかの資金が残る額を希望しています。

当案件での最大の問題点=不動産を含む企業の評価額

当社のM&Aアドバイザリー業務でも記載していますが、売り手側は高く売却したい、買手側は安く買いたいで対立したケースです。売却側の代表からすれば、売却により金融機関への返済を完済し、いくらかの退職金を受け取りたいとの希望がありました。

不動産会社の査定書では、土地、建物で約1億4000万の金額が記載されていました。理論上、この査定額に事業の評価額を加えれば、売却企業代表の希望は叶います。しかし、評価額が妥当かどうかは別の話です。そこで、弊社としては、この評価額が妥当かどうかについて調査を行いました。

  1. 不動産の査定額の根拠と妥当性
  2. 評価額が適正でないとしたらいくらが適正額であるか
  3. 事業の適正評価額はいくらか

12を調べるにあたり、弊社では不動産鑑定士に正式な鑑定依頼をしました。鑑定の結果は、土地の評価は不動産会社の査定とほぼ同額でしたが、建物の評価額が不動産会社の査定額に比較し、著しく低い額で鑑定されました。

低い評価額の一番の要因は、建物の築年数が経過しており、あと数年で簿価がゼロになることでした。もちろん、簿価がゼロだから使用できないことはありませんが、買手側としては近い将来建物の使用ができないリスクまたは立替のリスクを考慮せざるおえません。従って、こうしたリスクを回避するため買手企業は賃貸を希望しました。

3については、将来の事業計画を策定し、営業キャッシュフロー(事業で生み出す資金)からみて妥当な事業価格を算出しました。

金額交渉と契約

上記の調査と評価をベースに売却希望企業と売却額の交渉を行いました。最終的に買収希望企業とは、土地、建物は10年賃貸(10年定期借家契約)の契約を結び、10年後不動産の購入また賃貸契約の更新を行うことで合意すると共に事業の売却代金は一時金として払われることで本案件は成立しました。

尚、売却希望企業の賃貸料が10年間確保されるように、賃貸契約終了以前に契約を解除した場合には、違約金として残りの期間の賃料を買収希望企業が支払うことで合意し、その旨を契約書に記載しました。

また、従業員の雇用継続も契約書に明記しました。金融機関との返済交渉については、弊社が資料作成(事業の売却代金と賃貸料を返済原資とするシミュレーション等)と助言を売却希望企業の代表に行い双方が納得する形で決着しました。